りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

風紋(乃南アサ)

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家庭を顧みない父親と二浪して荒れる長女という問題を抱えていたとはいえ、普通の主婦であり母親であった女性が、突然殺害されてしまいます。逮捕された容疑者は、かつて長女も通い、今は次女も通っている女子高の教師。容疑者を巡る法廷ミステリ的な部分もありますが、本書のテーマは被害者遺族の再生物語。しかし、真の再生などは可能なのでしょうか。

著者は「犯罪の加害者以外はすべて被害者になってしまうのではないか」との思いから本書を書き綴ったと言います。しかも「心に癒し様のない傷を負った人たちを救う手だては、現在のところ皆無と言って良いと思う」とまで言っているのですが・・。

主人公は次女の真裕子です。事件のあった夜、父親も姉・千草も不在の家でただひとり帰ってこない母を待つ不安、事件を知らされた衝撃、母の死を実感できずにいる不安定さなど、「心が損なわれて」いく様子が、じっくりと描かれ、じわっと伝わってくるのです。そして終盤の「私、裁判って―お母さんの為にやってくれるんだと思ってた。本当に」という彼女の言葉が重くのしかかってきます。

一方で事件は、加害者の家族をも損なっていきます。妻の香織は夫と運命を呪いながら転落していくのですが、これもまた、ひとつの典型的な姿なのでしょう。まだ幼い大輔にはどのような傷を残すのでしょう。本書の続編として『晩鐘』という作品があるとのこと。7年後、事件の関係者はどうしているのでしょうか。やはり読むべきですね。

2013/3