りぼんの読書ノート

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上野池之端鱗や繁盛記(西条奈加)

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騙されて江戸にやって来た少女・お末の奉公先は、話に聞いていた有名料理店ではなく、連れ込みまがいの料理屋「鱗や」でした。しかし、少しでもお客を喜ばせたいというお末の熱意は、入り婿の若旦那を動かし、名店と呼ばれた昔の姿を取り戻す挑戦が始まります。

途中までは、若い娘を中心とした成功物語。やる気のない大旦那、浪費癖のある大奥様、我儘な一人娘の若女将。小言ばかりの女中頭、サボり癖のある女中、自信を喪失した料理人。こんなクセのあるメンバーを、ビジネスセンスのある若旦那と、やる気のあるお末が引っ張っていくという、なんとなくありきたりの展開なのですが、途中から様子が変わってきます。

物語の底流に流れていたのは、過去の殺人事件をめぐる復讐劇だったのですね。最後は、お末の若い熱意の強さと純粋さが問われます。彼女は、強い恨みに凝り固まった人の心を溶かすことができるのでしょうか。なお、この著者の時代小説には、よく現代経済の仕組みの片鱗が現れますが、今回のキーワードは「MBO」でした。

ところで、「懐石」とも通じる「会席」はお酒を飲ませるための定番料理であり、形式にとらわれず自由な発想と趣向で作られた料理が「即席」だとのこと。もともと「インスタント」とか「ファスト・フード」を指していた言葉ではなく、どちらが上等とか下等ということでもないようです。

2015/11