1986年生まれの、若い時代小説作家のデビュー作です。主人公は戦国末期に現れた稀代の天才絵師、加納永徳。名門の嫡男でありながら伝統や常識を超越したことは、若くして家督を弟の宗秀に譲った後に、安土城、聚楽第、大阪城の障壁画を制作したことが証明しています。ほとんど作品が現存していないのですが・・。
本書は、幼いころから自らの才能をもてあまし気味だった主人公が、苛烈な戦国時代を生きた個性的な人物たちとの出会いを通じて、苦悩しつつも成長していく物語。足利義輝、松永弾正、織田信長という、当時の歴代の京の主人たちと絡むだけでも、想像を絶することですね。
本書はまた、現存する数少ない代表作である「洛中洛外図屏風(上杉版)」の制作秘話にもなっています。後に信長から謙信に贈られたとされる屏風は、どのような経緯で描かれることになったのか。そして、京の町に暮らす人々の姿を全て取り込むかのような構図は、なぜ生まれたのか。
祖父・元信との強い絆はともかく、凡庸な父・松栄との確執の描写が執拗にすぎたことと、妻となってからの蓮がほとんど消えてしまったことなど、構成とバランスの面で若干の不満はありますが、まだ若い著者のことですから「伸びしろ」ですね。
2015/11