りぼんの読書ノート

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明日の子供たち(有川浩)

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児童養護施設の子どもからの、「自分たちの状況を小説に書いて欲しい」との手紙に応えて書かれた小説は、なまじのドキュメンタリーやルポルタージュ以上に、その実態と問題を明らかにしてくれるようです。とりわけ、私たちのような外部者が、潜在的に持っている問題を。

物語は、新任の施設職員である三田村慎平が、勤務初日に、散らかっていた子供たちの靴を整理しようとして先輩職員の和泉和恵に一括される場面から始まります。職員の役割は、児童たちの自立に手を貸すことであり、気まぐれな親切はかえって子供をダメにするというのです。

続いて慎平が味わった挫折は、「かわいそうな子供の支えになりたかった」という転職の動機を明かした、施設の女子高生から嫌われたことでした。この施設にいる子供たちの問題は、親に養育する力がなかっただけであり、大変ではあるけれど可哀想などと同情されることではないというのです。「間違った善意こそ、悪意よりもタチが悪い」のであり、本書の目的は第一に、そんな偏見を打ち壊すことにあるのでしょう。

しかし、経験はなくてもやる気がある慎平は、一歩一歩学んでいきます。なぜ理論派のベテラン職員の猪股は児童の大学進学を勧めないのか。なぜ口うるさい副所長は児童支援施設の存在を否定するのか。慎平のがむしゃらさは、ベテラン職員の「思い込み」を打破するきっかけにもなっていくのです。

昨年のドラマ「明日ママ」をめぐる騒動や、「タイガーマスク現象」もきちんと解説しながら、シリアスな問題についても丁寧に打開策を示そうとする著者の姿勢がいいですね。もちろん本書に著された問題は、ほんの一部にすぎませんし、著者の立場が100%正解というわけでもないでしょう。しかし、まず関心を持ってもらわないと何も始まらないのです。

その一方で、著者が得意とするラブコメ的エピソードや、自衛隊の存在なども織り込んで、しっかりと「有川ワールド」を作り上げている著者の力量に感心しました。

2015/2