りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

桜の森の満開の下(坂口安吾)

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二流の人のついでと言ってはなんですが、著者の代表作である本書も再読してみました。

ストーリーは単純なのです。美女を誘拐した山賊が、逆に女に支配されて都に移り住み、自己を失ってしまいます。そして強引に女を背負って、山へと戻ろうとする途中で通りかかった桜の森で起こった悲劇。狂気を生むのは孤独なのか。美なのか。「満開の桜の下には涯がない」という無限性なのか。やはり迫力ある作品です。

「櫻の樹の下には屍体が埋まつてゐる」とした梶井基次郎の感覚よりも、数段強烈です。本書の中に潜んでいるのは、ぼんやりとした不安感ではなく、鬼なのですから。いや、より正しくは、鬼が棲んでいるのは人の心の中なのでしょう。普段は心の奥底に潜んでいる鬼を外に引きずり出してしまうのが、満開の桜の森であり、本書のような小説なのです。

2014/6再読