りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

いにしえの光(ジョン・バンヴィル)

イメージ 1

初老の舞台俳優が、少年時代の恋を思い出します。20歳も年上である友人の母親から性の手ほどきを受けて許されない恋にのめりこんだ少年は、2人の関係が終わった日のことを思い出します。彼女の娘に見られてしまってすぐに、一家は町を出て行ったのでした。

10年前にイタリアで娘が自殺してから妻との諍いも続いており、舞台でセリフを忘れる失態を演じてからは仕事もない主人公でしたが、回想がトリガーだったかのように物語が動き始めます。ある批評家の伝記映画の主役への抜擢。若い恋人役の女性に見た娘の面影。若い女優の失踪。女優の後を追ってイタリアへ向かう主人公。

そして、かつての年上の恋人の行方の捜索を探偵に依頼した主人公が見出したのは、50年前の恋の背景にあった、思いがけない事実だったのです。あの恋は、なぜあんなにも耀いていたのか。なぜ急に終わりを告げられたのか。少年時代の記憶とは異なっていた過去に、主人公は愕然とするのですが・・。

「信用できない記憶」に対して「過去の真実を発見」するというテーマは、現代小説においては目新しくはありません。著者自身もバーチウッド)』海に帰る日で既に用いている主題でもあります。しかし、この著者において「過去の記憶」はいかに「死」と深く関わっているものなのか。以前の小説の変奏曲ではあるものの、読む価値のある作品です。

2014/5