りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013 My Best Books

今年も最後に、1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみようと思います。
長編小説部門(海外)

エコー・メイカー(リチャード・パワーズ)

最近の著者が描く人間心理は、大脳生理学研究の進展と真っ向から向き合っているようです。著者が提示する文学的な命題が、いかに自然科学的な命題との共通項を含んでいることか。損傷を受けた脳が「虚構」を作り上げて自らの整合性を保とうとする過程は、9.11以降のアメリカ社会を思わせます。そして読後に深い感動を与えるというのですから、もはや神業です。

他には、同じ著者の近著である『幸福の遺伝子』、コニー・ウィルスの長編『ブラックアウト』と『オール・クリア1』、『オール・クリア2』、ジェフリー・ユージェニデスの『マリッジ・プロット』、デイヴィッド・ミッチェルの『クラウド・アトラス』、コラム・マッキャン『世界を回せ』などが、素晴らしい作品でした。

長編小説部門(日本)

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

村上さん得意の「喪失と回復の物語」は、前著『1Q84 Book1・2』と『Book3』よりも軽めのテイストですが、その分よく纏まっているようにも思えます。著者の作品の中で一番好きな『スプートニクの恋人』と同じような匂いも感じました。

他には、高村薫さんの力作『冷血』(上巻下巻』、水村美苗さんの『母の遺産-新聞小説』、宮部みゆきさんの『桜ほうさら』、林真理子さんの『六条御息所源氏がたり3部作』(1.光の章2.華の章3.空の章)などが強く印象に残りました。

ノンフィクション部門

それからのエリス(六草いちか)

森鴎外の『舞姫』のヒロインであるエリスが、鴎外を追って来日したことがある実在の女性であることは広く知られていましたが、彼女の正体は長らく議論の的でした。前作『鴎外の恋』で文献や公的記録を執拗に調査して、彼女の本名、生誕地、職業などをつきとめた著者が、鴎外と別れてからのエリス(本名:エリーゼ・マリー・カロリーネ・ヴィーゲルト)の後半生をたどります。そしてついにめぐり合えたのは、2度の大戦を生き抜いて天寿を全うした逞しい女性の姿。写真のエリーゼはもうお婆ちゃんでしたけどね。著者の執念の調査はまだ終わってはいません。


今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。2014年もいい1年にしたいものです。家庭も、仕事も、読書も、そして健康も。来年もよろしくお願いいたします。

2013/12/29