りぼんの読書ノート

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舞姫・うたかたの記(森鴎外)

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鴎外初期の「独逸三部作」を収録した短編集です。
六草いちかさんが舞姫エリスの正体をついにつきとめて120年に渡る論争に終止符を打った研究書鴎外の恋 舞姫エリスの真実それからのエリスを読んで、本書を再読してみました。

留学先で孤独に苦しむエリート官僚の太田豊太郎は、もちろん鴎外の分身です。教会の前で泣き伏す美少女エリスに心奪われ、清純な交際をしていたものの留学生仲間の讒言にあって免職。新聞社通信員の職を得てエリスと同棲をはじめた豊太郎でしたが、友人・相沢の計らいで帰国して復職する機会が訪れます。しかしその時エリスは身ごもっていたのでした・・。

豊太郎が罪悪感と心労とで人事不省に陥っていた間に、相沢は全てを調整してしまいます。「我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺き玉ひしか」と叫び発狂するエリス。帰国の途に就きながら、「嗚呼、相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裡に一点の彼を憎むこころ今日までも残れりけり」と歎ずる豊太郎。

主人公の意志は弱く身勝手であるとも思えますが、まさに傑作です。高雅な文体と浪漫的な内容が、時代の感情とマッチしていたことは言うまでもありません。

他には、高名な画家の遺児ながら狂女を装いつつ美術モデルをしているマリーの悲劇「うたかたの記」、結婚の煩わしさに耐えかねて女官を志願するイイダ姫のたくらみ「文づかひ」、初期の翻訳小説「ふた夜」が収録されています。

2014/3