短大を卒業してから20年。40代となった6人の女性たちが旧交を温めあう物語は、人生において大切なものの存在を浮かび上がらせてくれるようです。それは、3.11の大災害を背景としているからだけではありません。著者が大切に思っていることが丁寧に描かれているからなのです。
お人好しだったノンは、東北の海辺の町に嫁いで娘2人を得たものの、夫の浮気に悩んでいます。学生時代に亡くなった男性の友人・森川のことを思い出して友人たちに連絡を取ったのは彼女でした。真面目で賢かった領子は、未婚のまま編集の仕事に就いていましたが、雑誌が倒産して失業中の身。美人だった明子は、従兄弟のカンペーへの思いを断ち切って後妻に入ったものの、義理の娘との関係に悩んでいます。
お洒落だった穂之香は、亡くなった森川と付き合っていましたが、彼の死後に共通の友人の栃田と結婚して広島で暮らしています。実は森川の死に夫が関わっていたのではないかと疑っていたのですが・・。おっとりしていた花は未婚で親の介護をしていますが、以前は明子の従兄弟のカンペーとつきあっていました。別れたきっかけは神戸の震災で姉夫婦を亡くしたことでした。
5人がノンの嫁ぎ先で集まった晩、アメリカにダンス留学したものの、仕事にも結婚にも挫折したまま日本にて帰れないままいた美晴は、ひとりで友人たちを偲んでいました。その最中、地震と津波の情報がもたらされます。美晴は思います。「彼女たちはただのおばさんであって、ただのおばさんではない」と。彼女にとっては「あのがむしゃらだった若かりし日々を知っていてくれる数少ない友人たち」なのだからと。
20年ぶりに会っても、互いを偲んでも、彼女たちが抱えている問題は何ひとつ解決しません。でも過去に思いを馳せて、当時からの繋がりを確かめ合い、当時から今に至る自分の歴史を振り返ることは、間違いなく必要なことなのでしょう。たとえそれが思い通りではなかった年月であっても、自分が「ただの現在ではないこと」を確認することは、明日への力になるのですから。
18世紀ヴェネツイアの音楽院を舞台とした前作の『ピエタ』とは異なる雰囲気の作品ですが、テーマは同じです。
2013/12