りぼんの読書ノート

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サエズリ図書館のワルツさん 1(紅玉いづき)

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電子書籍の普及だけでなく、厳しく変化した社会情勢の中で、「紙の本」が絶滅寸前になっている未来の世界。そんな中で奇跡的に膨大な「紙の本」を所蔵して、無償で普通に貸し出している「サエズリ図書館」と「特別探索司書のワルツさん」を中心にした物語。図書館に勤務していた著者がおくる、不思議で優しい作品です。

本とごく普通につきあえている優しいおじいさんのイワナミさん。読書経験もなく本など手の届かないほど遠くにあると思っていた、ドジOLのカミオさん。忙しく充実した生活を送っている小学校の教師ながら、別居している小学生の娘との関係に悩むコトウさん。書痴であった祖父への思いが嵩じて、本を憎むようになってしまった情報会社勤務のモリタさん。

そして未返却本を「シティ」まで取り戻しに行くワルツさんの物語で、この世界のあり方が明らかになっていきます。そして「2011年の春、もしかしたら、本はなくなるのかもしれない」との不安に駆られて「この物語を書きたいと思った」という著者が本書に託した想いが、強く伝わってくるのです。「私の宝物が本でよかった。魂だけじゃ、抱きしめられませんから」との言葉は珠玉です。

もうひとつだけ付け加えておくと、紙の本は眼に優しいのです。眼に焼きつく電子書籍では、読みかけたまま眠りに落ちるなどという至福は味わえないのではないかと思います。

2013/12