りぼんの読書ノート

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サエズリ図書館のワルツさん 2(紅玉いづき)

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シリーズ第2巻は、就職活動に全敗して自身を失い、「サエズリ図書館」にボランティアとして飛び込んできたチドリさんが、彼女にとっての天職を見出すまでの物語が中心となっています。

それは「図書修復師」。図書館の特別探索司書であるワルツさんの父親とも因縁の深かった老修復家の降旗庵治は、命がけで本の修復に取組んできた人物ですが、世界を変えてしまった大きなできごと以来、諦念とともに生きるようになっていました。

弟子入りを願うチドリさんに対して「未来がない本に若者の将来を託すわけにはいかない」と頑なに拒絶し続ける老修復家。しかし彼が振り返る過去の中で、彼の諦念の根底にあったものが明らかになっていきます。そして、ワルツさんの生い立ちや、彼女と父親の関係、そして彼女が図書館と蔵書に抱く強い思いの理由も。「紙の本」が稀少化して絶滅寸前となった世界で、図書館や図書の修復にどのような意義があるのか、重いテーマが問われていくのです。

各章の冒頭にある挿絵は、はじめはオドオド感があったチドリさんが次第に逞しい女性に変身していく過程を、よく表現していますね。本書は彼女の成長物語でもあるのです。

この図書館の唯一の職員であるサトミさんのエピソードを描いた短編は、正直言ってよくわかりませんでした。ちょっとはぐらかされた感じです。まあ、デビュー作のミミズクと夜の王で、主人公にいきなり「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」と言わせた著者の「不思議なテイスト」よりは、理解しやすいのですが。

2013/12