りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

十二国記 8.丕緒の鳥(小野不由美)

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このシリーズの枠組みは既に、古代中国思想をベースとしてかっちりと決められています。図案のような地図、麒麟によって見出される国王、胎果がもたらす生命、昇仙して不死となる国王や役人、国王の不在や為政の乱れが引き起こす災害・・。まるで箱庭のような世界ですが、そのことは逆に、シリーズを通じてのテーマである「天意とは何か」との問いをくっきりと浮き上がらせくれます。

丕緒の鳥
慶国の新王即位の礼でおこなわれる「大射」とは陶の鵲を射落とす儀式。儀官である丕緒は、鵲とは民のことではないかと思い、この儀式に国のあるべき姿を重ねていたものの、過去の王たちは理想から眼を背け続けるばかり。荒廃した国に立った新王に、彼の思いはとどくのでしょうか。もちろん新王とは陽子のことです。著者は、理解ある読者の存在を望んでいるかのようです。

「落照の獄」
国王の意思によって死刑を廃していた柳国の秋官・瑛庚は、無意味で残虐な殺人を重ねて後悔もしていない凶悪犯・狩獺の処罰に悩んでいます。政治への興味を失ってしまったかのような国王は、司法に一任すると言うばかり。国家の傾きを意識する中で瑛庚らは、正解はないことを知りつつも死刑の是非を自問し続けるのですが・・。

「青条の蘭」
欅(ブナ)の木が石化する疫病が蔓延しはじめた国では、生態系が崩れていこうとしています。生まれ育った国土を救うため、奇病の薬となる草を発見した下役人の標仲は、新王に願い出て卵果を実らせてもらおうとするのですが・・。荒廃した国土と官吏の横暴の中で、王宮への道半ばで倒れた標仲の望みを、見ず知らずの人たちが繋いで生きます。向かう先は玄英宮。ここは雁国で、新王とは尚隆のことだったのですね。

「風信」
慶国女王・舒覚の悪令によって両親と妹を殺害されて故郷を後にした蓮花は、女王の死後も故郷に戻らず、暦作成者である嘉慶の槐園で下働きとして暮らします。戦火の中でも浮世離れした嘉慶らに怒りすら覚えた蓮花でしたが、人は自分にできることをするしかありません。やがて燕の巣に雛が増えていることから、天の気が整ったと宣言する嘉慶の言葉を聞いた蓮花は、亡き家族を思って初めて涙を流します。

12年ぶりのシリーズ作品である本書は短編集でしたが、新たな長編の動きもあるようです。慶国は陽子のもとで安定に向かいそうですが、泰国の「その後」は気になっているのです。

2013/12