「シャーロック・ホームズ」パスティーシュですが、全て19世紀末のアメリカを舞台とした作品になっています。一番の問題は、「正典」の隙間をついてホームズのアメリカ訪問の時間を作ることですね。やはり『緋色の研究』の直後か、モリアーティと相打ちとなったと思わせた空白の時期か、半ば引退していた『最後の事件』の直前に集中しているようです。フロンティアは消滅したとはいえ西部開拓の雰囲気が色濃く残るアメリカと、第一次世界大戦直前のアメリカの世相が楽しめます。
「ウォーバートン大佐の狂気(リンジー・フェイ)」ワトソンがサンフランシスコで見聞した不思議な事件とは、狂気に陥って遺産相続者を書き変えた大佐の失踪劇でした。「正典」にタイトルだけ登場している事件を書いてみたということのようです。
「幽霊と機械(ロイド・ローズ)」リンカーン暗殺事件を捜査したほどの人物が、どうしてインチキ降霊会を信じようとしているのでしょうか。
「咳こむ敗者の事件(ローレン・D・エルスマン)」なんとワイアット・アープとの共演です。ホームズはドク・ホリディの脱獄に一役かっていたんですね。
「消えた牧師の娘(ヴィクトリア・トンプスン)」後の大統領セオドア・ローズベルトがNY警察本部長時代。ホームズは行方不明になった娘の捜索事件に協力します。
「ホワイト・シティの冒険(ビル・クライダー)」シカゴ万博でカーネル・コーディが座長を務める「ワイルド・ウェスト・ショー」の裏側で陰謀が企まれていました。ホームズとアニーの出会いがなかったのは残念!
「甦った男(ポーラ・コーエン)」ニューヨークで陰謀に陥れられた元警察官を救うために、ホームズは悪徳弁護士から書類を盗んでしまいます。ホームズの犯罪ですが、こんな事件が「正典」にもありました。
「女王蜂のライバル事件(キャロリン・ウィート)」サンデエゴの共同体で起きた女性養蜂家殺害のたくらみを見抜いたホームズですが、晩年に養蜂家になったヒントはこの事件だったのでしょうか?
「失われたスリー・クォーターズの事件(ジョン・L・ブリーン)」シカゴの大学のアメフト選手が失踪した理由を解き明かしたホームズですが、当時アメフト・ルールは整備途中で、今なら反則技のオンパレードです。
「たそがれの歌(マイケル・ブラナック)」アスキス首相と兄マイクロフトは、半ば引退していたホームズをシカゴのフィニアン派に潜入させますが、真の目的はアイルランド独立派の見張りではなく、ドイツをけん制することでした。「最後の事件」の直前のことです。
「モリアーティ、モランほか正典における反アイルランド的心情(マイケル・ウォルシュ)」アイルランドの血を引くコナン・ドイルですが、複雑な感情を持っていたようです。アイルランドに多い「mol」で始まる悪役が多いこと。でも一番合性が悪かったのが「メアリー・モースタン」とは! 確かにワトソンとメアリーの結婚時代を通じて、ホームズは行方をくらましているんですね。
「アメリカにやってきたシャーロック・ホームズの生みの親(クリストファー・レドモンド)」コナン・ドイルが実際にアメリカを訪れたのは1度だけ。東海岸の各都市を1ヶ月間めぐったそうです。西部には行かなかったのですね。
2012/12