大陸に売られた孤児フミこと芙蓉が芸妓から舞姫へと変容していった『芙蓉千里』と『北の舞姫』に続くシリーズ最終巻。ここで芙蓉はさらなる大変身を見せてくれます。初恋の人・山村健一郎こと楊健明を追って極寒のシベリアで再会。不世出の舞姫は恋ゆえに芸を捨て、馬賊になってしまうのですから。
馬賊の頭目である健明の太太(妻)となったものの、なかなか馬賊団のメンバーからは仲間として受け入れられてもらえません。俊馬ショールガと出会い、持ち前の思い切りの良さと身軽さとで、仲間たちにとってなくてはならない存在になっていく過程が前半の読ませ所。以前に健明の太太であったサランカヤの壮絶なエピソードや、馬賊たちそれぞれの過去などが物語を彩ります。
後半は一転して、モンゴル独立戦争への参加。あえてウンゲルン率いる白軍と協力して、ロシア革命後の混乱に乗じてモンゴルを支配していた中国軍を撃破。次いで残虐な行動を繰り返すウンゲルンを駆逐。その過程で重要な役割を担ったのは、健明を頭目とする馬賊軍でした。しかし、激戦の中で健明は負傷。極東共和国軍の応援を求めに長躯した芙蓉は間に合うのでしょうか・・。
かつてのモンゴル国君主であったボグド・ハーンと健明との関係、ソヴィエトの傀儡という枠を超えて新国家の建設に邁進するクラスノシチョーコフ大統領の熱意と失脚、困難な外交を進めようとする黒谷の苦悩など、盛りだくさんですが、芙蓉の一途さが物語をぐいぐい引っ張っていきます。タエとの再会を果たすエピローグまで一気呵成。
シリーズを締めくくるにふさわしい、スケールの大きな作品に仕上がりました。第1巻の『芙蓉千里』からここまでの展開を構想していたとは素晴らしい。
2013/8