りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部(酒見賢一)

イメージ 1

長坂坡で曹操に大敗して辛くも逃げのびた劉備一党は、起死回生の策として「呉」との共闘を模索。いよいよ『三国志』の白眉である「赤壁の戦い」の始まりです。

が、その前に、酒見さん描くところの「呉」が凄すぎます。都から離れた辺境の無頼の地「江南」は、まるで「仁義なき戦い」の広島状態。父の孫堅と兄の孫策がまとめ上げた「連合会」の跡目に座った孫権は、和平論者であるオジキの張昭の前に頭が上がらず、各勢力との共同戦線を説く武闘派の魯粛や、単独抗戦を主張するイケメン若頭の周喩らとの調整に汲々としているのです。確かに「呉」は一枚岩ではなく「連合会」というのがぴったりで、広島弁が似合う土地柄なんですけどね。

そこに乗り込んだ孔明は「レッド・クリフ」の金城武イメージそのままに、宇宙の神秘を語って相手を煙に巻き、天気予報だけしている変人としかみえません。もともと劉備軍団はボロボロで実体もなく、「赤壁」は魏と呉の戦いであり、その主役は曹操周喩なのですが、『三国志演義』はかなり無理をして「共闘」の形をとらせようとしているんですね。これは吉川英治版の『三国志』でも感じたこと。

その「不可能を可能にする」というか、「可能だったように歴史を捏造させる」ためのハッタリをぶちかます孔明に初対面のときから殺意を抱いたのが周喩です。正しい直感です。最後まで孔明に洗脳されなかった周兪は大スターなのです。しかし、孔明はその上手を行く魔性の変質者だったのです。一方で、張昭と張り合えるほど貫禄ある大幹部なのに、孔明のマブダチにされてしまった魯粛は大迷惑。

ところで、本巻の冒頭でかなりのページを割いて、酒見さんの「三国志・爆笑サブカルチャー論」が展開されていました。「孔明・周兪のボイーイズラブ関係説」まで飛び出しているというのですから、「うっかり歴史になど名を残すものでは」ありませんね。^^;

2013/2