りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

とにかくうちに帰ります(津村記久子)

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連作短編「職場の作法」と表題作とが収録されています。

「職場の作法」では、事務担当の女性をないがしろにしたために冷ややかな対応をされて仕事の効率を悪くしてしまう上司や、他人の持ち物をブラックボックス化した机に入れて帰さないおじさんや、微妙な成績のフィギュアスケート選手を応援する女子社員の話など、「職場」というものが持つ独特で不思議な人間関係の雰囲気がよく伝わってきます。

直接「職場」とは関係ありませんが、贔屓にするスポーツ選手がことごとく不運な目に合うという異能力を持つ女子社員・・怖いです(笑)。

「とにかくうちに帰ります」では、豪雨で地下鉄もバスもすべて止まってしまった日に、徒歩で長い橋を渡って帰宅しようとする人たちの間に生まれた微妙な共通意識が描かれます。それぞれ理由はあるものの、帰巣本能に突き動かされる人たちのことは笑えませんね。3.11の日に似たような経験をされた人も多いでしょうから。

著者は「働いていると理不尽なことが起こるのは当たり前で、いちいちキレるのではなく、どう受け流すかという“うまい受け身の取り方”を書いた小説です」と述べていますが、小説家デビューを果たした後も会社勤めを続けている方らしく、微妙な着眼点も観察眼もうまく生かされている小説です。

2012/7