りぼんの読書ノート

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少女霊異記(高樹のぶ子)

奈良薬師寺の僧・景戒による『日本霊異記』の成立は9世紀はじめのこと。「説話集」なので、勧善懲悪を説いて仏法僧を敬うためのエピソード集であるべきなのですが、これはいい意味で玉石混交でハチャメチャなのです。別の言い方をすれば、物語として面白いものが多いとのこと。後の民話や小説のモチーフとなっている作品も多いのです。

 

本書は、奈良の薬師寺職員として働き始めた高畑明日香の周辺で起こる不思議な事件を、ミステリ形式で綴った作品です。もちろんそれぞれの物語の背景には『日本霊異記』のエピソードがあり、必ずし科学では割り切れない不思議な出来事も起こります。

 

「殺された母はどこに埋められているのか」と幼い字で書かれた絵馬、「鐘つき堂の馬鬼と蛇鬼と猿鬼に殺される」とメッセージを残して失踪した女子高生。雷を呼ぶ少女。夢の意味を解明する僧侶。地名や人名のことになると熱くなる明日香は、それぞれの事件が『日本霊異記』に記された地で事件が起きていることに気付きます。彼女を助けるのは、カラスのケイカイや、ミステリー好きな畳屋の繁さん、ボーイフレンドになりそうな岩島優たち。

 

ラストの物語が微妙にいいですね。明日香に憑りついたようにあちこちで現れる「八」の数字の意味を解明する話です。藤原永手に排除された道鏡と、彼との関係を噂されて貶められた称徳女帝の名誉を回復する明日香は気づくのです。死のイメージを持つ四を重ね合わせれば、永遠の末広がりを意味する八になると。本書は古代に魅力を感じる明日香が、現実の純愛を発見する物語なのでした。

 

2022/6