りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

顔のない軍隊(エベリオ・ロセーロ)

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無慈悲な昼食』の著者の出世作です。

南米の僻村でのんびり暮らしているかのような元教師の老人イスマイルの趣味は、隣家のブラジル人の奥さんが裸で家にいる姿を覗き見すること。長く連れ添った老妻オルティアからは、いつもたしなめられています。

こんなゆるい始まりなのに、村の置かれた状況は深刻なもの。政府軍、右派民兵、左翼ゲリラ、麻薬密売組織が複雑に絡み合って戦闘を繰り返し、誰が誰の敵なのかもわからないまま、誰ともわからない武装組織に蹂躙され続けて行方不明者が頻発しているのです。

またも村に武装組織が侵入してきて、オルティアが行方不明になってしまいます。妻を捜して村の中をさ迷うイスマイルに入ってくる情報は、隣家のブラジル人や友人の医者が虐殺されたというもの。地雷で封鎖された町からは飲み屋の親父も、エンパナーダス売りの男も、結局みんな消えていってしまう・・。

オルティアを待ち続けるために最後まで村に残ることを決めたイスマイルですが、武装組織の正体も戦況も不明な状況は、恐怖と混乱としか言いようがありません。「顔のない軍隊」とは単なる暴力装置でしかなく、もはや人間性を感じさせない存在なんですね。派手な戦闘シーンなどは登場しないこの小説は、日常生活の中に戦争があることの恐ろしさを生々しく伝えてくれます。

2012/6