りぼんの読書ノート

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八十日間世界一周(ジュール・ヴェルヌ)

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何度も映画化された作品です。映画の印象があったので、どこで気球に乗るのか期待しながら読んでいたのですが、原作には気球は登場しないんですね。

1872年10月2日午後8時45分、ロンドンの謹厳な資産家であるフォッグ氏は従者のパスパルトゥーを連れて新聞が狂気の沙汰と評した「80日間世界一周の旅」に出ます。彼は1秒でも遅れると全財産を失う賭けをトランプ仲間としたのです。

この本は1872年に出版されましたので、まさにその当時可能であった世界一周の物語ということになります。著者は、トーマス・クック社による世界一周ツアーに刺激されて本書を書いたとのこと。ではフォッグ氏の旅行計画を見てみましょう。

・ロンドン~スエズ: 鉄道および蒸気船: 7日
スエズボンベイ: 蒸気船:13日(20日)
ボンベイカルカッタ: 鉄道: 3日(23日)
カルカッタ~香港: 蒸気船:13日(36日)
・香港~横浜: 帆船: 6日(42日)
・横浜~サンフランシスコ: 蒸気船: 22日(64日)
・サンフランシスコ~ニューヨーク: 鉄道: 7日(71日)
・ニューヨーク~ロンドン: 蒸気船: 9日(80日)

ところが旅行はこの通りには進みません。フォッグ氏が銀行強盗であると思い込んだイギリスの探偵が執拗に付け回しますし、インド横断鉄道は途中がまだ繋がっていません。香港では定期船に乗り遅れてしまい、小船をチャーターして上海経由で横浜に向かうことになりますし、アメリカ西部ではインディアンに襲われてしまいます。そして、ニューヨークで再び定期船に乗り遅れ、変わりの手段を探すのですが・・。

なぜフォッグ氏がこんな旅行に出たのか、その動機はよくわからないままなのですが、「大冒険」の気概が高まっていた当時は、「酒の席で冒険を賭ける」ことは紳士として一般的なことだったのかもしれません。それでも、経済合理性優先の冷たい人物と思われたフォッグ氏は、ジェントルマンぶりを大いに発揮して読者を驚かせます。

インドでは老主人の死に際して殉死を強要される寸前の女性の救出に向かいますし、彼を侮辱した大佐とは決闘を行ないます。さらにスー族に拉致された従者を救出と、旅程の遅れをものともしない活躍をするのですから。

フォッグ氏は賭けに勝ったものの、莫大な出費のために得たものはありませんでした。インドで救出した女性アウダを生涯の伴侶と決めたことを除いては・・。でも本書の価値は、「そもそも人は得られるものが少なかったとしても、世界一周の旅に出かけるのではなかろうか」という最後の一文で、全ての計算を放棄したことにあるように思えます。

2011/12