ヴィクトリア朝のロンドン。科学者だった父親が自殺した後、長く病んでいた母親も亡くしたメアリ・ジキルは、母が「ハイド」という人物に毎月送金していたことを知らされます。その人物とはダイアナ・ハイドというすれっからしの少女。読者はもう気付きますよね。メアリはジキル博士の娘で、ダイアナは彼が変身した邪悪なハイド氏の娘。２人は姉妹だったのです。
やがて２人のもとに集まってきたのは、ラパチーニの娘で毒を持つベアトリーチェ、ドクター・モローが生み出した猫娘キャサリン、フランケンシュタイン博士が死から蘇らせたジュスティーヌ。身寄りを持たない「モンスター娘たち」は、「錬金術師協会」なる謎の組織が彼女たちを追っていることに気付きます。調査を始めた彼女たちは、その頃ロンドンで起きていた連続娼婦殺人事件の捜査を依頼された名探偵シャーロック・ホームズとワトスンに出会い、両者の間に協力関係が生まれるのですが・・。
ここは、錬金術や人体改造に関する医学が突出して発達した世界だったのですね。１９世紀を舞台とする怪奇小説に登場して、死んだはずの因縁の人物が次々と現れてくる展開には意表を突かれます。しかも女性たちの権利が著しく制限されていた時代に「娘たち」を持ってきたことが、物語のリアリティを少々高めているのです。遺産も相続できない彼女たちは、自力でお金を稼がないと生活を維持できないのですから。
本書の事件は、実は完全には解決していません。ラストで吸血鬼ハンター「ヴァン・ヘルシング」の娘ルシンダから救出依頼の手紙を受け取った「娘たち」の次の冒険が待たれます。３部作とのことなので、続編の翻訳もぜひお願いします。ところで本書のメアリは、ワトソンと結婚するメアリなのでしょうか。苗字が違うのは、ジキルなんて名乗れなかったからとか？
2021/3
