りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

黄金の騎士団(井上ひさし)

イメージ 1

2010年に亡くなった井上ひさしさんの「未完の遺作」です。かつて『吉里吉里国』を日本から独立させてユートピアを作ろうとした著者が最後に描いた夢は、「子ども共和国」でした。

四谷にある「聖母の騎士園・若葉ホーム」は、300人の孤児を育てた私設の孤児院でしたが、経営者の夫婦が高齢化して経営の危機に陥りました。院長先生はボケて徘徊し、副院長先生のおばあさんは骨折して入院、認知症の入り口にあるというのです。現在預かっている孤児はたった6人しかおらず、地上げ屋が土地を狙っているという状況のもとで、かつての卒業生・外堀は、入社したばかりのワールドランド社を辞めて若葉園のピンチに駆けつけます。

しかし若葉園は、「黄金(きん)の騎士団」と名乗る団体からのタイムリーな寄付金によって守られていたのです。外堀が発見した騎士団の正体は、難病に罹っている天才少年と孤児たち自身。ある孤児が受け取った遺産をもとにしてロンドンやシカゴの商品先物取引で100億円もを稼ぎ出していたというから驚きです。しかも子どもたちの真の狙いは、過疎の村を丸ごと買い取って「子ども共和国」としての独立というのですから、これはびっくり。

実は「子ども共和国」にはモデルがあります。スペインの神父が設立した、貧しく教育も職もない青少年たちの自立支援の共同体「ベンポスタ」には世界各国から2000人もの若者が集まっており、サーカス団の海外巡業や、印刷所、自動車修理工場などの経済活動によって経済的に自活しているんですね。なかでもユニークなのはサーカス学校まで作って力を入れているサーカス団。巡業で収入の大半を賄っているとのこと。子どもたちは日本版「ベンポスタ」を作ろうとしているんです。

物語は、天才少年の病死によって先物取引での稼ぎが危機に瀕する一方で、子供たちの前に国際資本と政治家が立ち塞がったところで終わります。子供たちの夢は実現するのか。『吉里吉里国』のように悲劇で終わるのか。井上ひさしさんは、どのような構想をお持ちだったのでしょうか。

2011/12