りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ピンチョンの『逆光』を読む(木原善彦)

イメージ 1

アメリカのポストモダン文学の代表的作家ピンチョンの代表作逆光の解説書です。もともとメタな既存テキストなど存在しませんから、読者の数だけ読み方があることは言うまでもありません。著者も本書を「補助線の引き方の一例」と位置づけています。

では著者はどんな「補助線」を引いたのでしょう。著者が「19世紀末という時代に対する知識」として説明するキーワードは、大量屠畜、鉄道、SF,探検、映画、気球、奇術、西部の喪失、強欲な資本家、強欲劣悪な労働条件、労働組合に対する弾圧、無政府主義、テロの時代などなど。

確かに1893年のシカゴ万博から始まる『逆光』では、謎の飛行船「不都号」に乗る「偶然の仲間」の荒唐無稽な冒険物語と、資本家スカーズデール・ヴァイブに殺害された鉱山労働者にして爆弾テロリストウェブ・トラヴァースの遺児たちの物語が中心をなしています。まさにキーワードの通り。^^

さらに、光と屈折率、不可視の都市、ニコラ・テスラツングースカ事件、方解石、四元数、ベクトル派、二か所存在などの科学と虚構がないまぜとなった「知識」が駆使される数多くのエピソードを理解するのにも、これらのキーワードは役立ちそう。

そして「シャンバラ」です。恩寵に向かって上昇する飛行船のイメージに、真の啓示は示されているのかどうか。これこそが読み方が分かれる最大のポイントかと思いますが、もちろんその判断は読者に委ねられています。あくまで本書は「補助線の一例」ですからね。^^

なお、巻末にある『逆光』のあらすじは不要でしょう。

2011/9