「本の街・神保町を舞台にした極上サスペンス」とありますが、古書店主や翻訳家を登場させたにもかかわらず「書くこと」や「本」に関する思い入れの現れ方は希薄だったように思えます。サスペンス性もあまり感じませんでしたしね。
中年の翻訳家・吉野が、学生時代に下宿していた古書店「泪亭」の2階で出会ったのは、白井砂漠と名乗る謎の美女でした。粗末な部屋で何度も身体を重ねた2人でしたが、砂漠が借金を申し込んだことから、悲劇が始まります。
「砂漠」という名前や、彼女の境遇や心境、古書店主との因縁、下北半島を「まさかり」と呼ぶ感性には、「桜庭さんらしさ」を感じたものの、はっきり言って期待はずれかな。何より、「借金」をテーマとしたミステリというと、宮部みゆきの初期の傑作『火車』と比較してしまいます。
桜庭さんには、ぶっ飛んだストーリーや、ドロドロした情念を期待していますので。
2011/8