りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

シェル・コレクター(アンソニー・ドーア)

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14歳の少女から初老の男性までの多様な主人公を操って、世界の様々な場所を舞台に描かれた8つの短編の主題は「救済」のようです。簡潔な文体に習って、各作品を点描的に紹介してみましょう。でも、こんな紹介で伝わるでしょうか?

貝を集める人
ケニア沖の孤島でひとり暮らす60歳の盲目の貝類学者。イモガイの毒が起こした奇跡。父親を訪ねてきた1人息子の死。イモガイに刺されて臨死状態となった学者が見たものは濃く鮮やかな青。感じたのは凄惨で冷酷な孤独。かつて難病から救った少女による蘇生。

ハンターの妻
毎夜オオカミの夢を見るハンターにも理解できない、死に触れて生命の流出を感じる妻。妻が去って20年後の再会。妻が起こす奇跡への初めての立ち会い。

たくさんのチャンス
海辺の街へ行って船の設計の仕事をすると娘に嘘をついた用務員の父親。14歳の娘がはじめて見た海。娘にフライ釣りを教えて、夏の終わりとともに町へ帰っていった少年。父親の嘘を知った少女がはじめて釣った魚。

長いあいだ、これはグリセルダの物語だった
サーカスの男についていったまま戻らず、世界中から絵葉書を送ってくるグリセルダ。姉を羨みながら地元に留まり、平凡な結婚をして平凡な時を重ねる妹ローズマリー。20年後、つかの間の再会を果たす姉妹。これは誰の物語?

世話係
リベリア内戦で行方不明となった母親を捜してさまよう男が見た地獄。強制された殺人。難民としてアメリカに渡り、他人が私有する森で勝手に菜園を開き、目の見えない少女と分かち合った緻密。打ち上げられた鯨の心臓の埋葬。祖国の内戦が終わって帰還する日。

ムコンド
タンザニアで「走る少女」と出会って恋に落ちた化石ハンターのアメリカ人。行き止まりに来たらさらにもう一歩を踏み出すルールを自分に課していた小女が最後に踏み出したのは、アメリカでの結婚生活。異国での生活に疲れてカメラを手に祖国へ戻った妻。20年後、かつて2人が崖に向かって一歩を踏み出した場所の写真を受け取り、タンザニアに向かう男。

どうやら「救済」に至るまでに孤独を耐え忍ばねばならない期間は20年のようです。まだ30歳になったばかりという若い著者が、実際に何かを耐えた時間なのでしょうか。他に「七月四日」と「もつれた糸」の2作が収録されています。

2010/10