りぼんの読書ノート

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夏への扉(ロバート・A.ハインライン)

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1957年出版の、古典的な「タイムトラベルSF」であり「猫SF?」でもある作品です。

1970年のロサンゼルス。主人公ダンが起こした家事用ロボットのベンチャーは好調で、美しい恋人ベルとの結婚を控えて幸福の絶頂にいましたが、共同経営者の親友マイルズとベルの裏切りで、全てを失ってしまいます。愛猫のピートと冷凍睡眠に入る決意を翻して、2人への復讐を試みますが、返り討ちにあってピートは行方不明。ダンは麻痺させられて冷凍睡眠へ。

30年後の未来に目覚めたダンは、自分が知っていた過去と何かが違っているように思えてなりません。研究が凍結された軍事機密のタイムマシンの存在を知り、策略を用いて過去に戻ったダンがしたこととは・・。

タイムマシンで過去に戻り、冷凍睡眠で未来へ帰ってくるというのが味噌ですが、同一の時間、同一の世界にダンが2人存在してしまうことをはじめとして、この本では「タイムトラベル・パラドックス」の問題は解決されていません。プロの批評家の間で評価が低いというのは、よく理解できます。

でも、本書の魅力は違うところにあるのでしょう。主人公ダンと愛猫ピートの信頼関係を通じて、著者の、未来に対する信頼を感じられることが、何とも爽やかな読後感をもたらしてくれるのです。描かれている未来は、アメリカ国内での核戦争など、決して明るいことばかりではないんですけどね。冬のコネチカットで、ダンが「夏への扉」を開けてくれるものと信じているピートを描写した冒頭から、一気にひきこまれてしまいました。SFファンでなくても、「ネコ好き」の人には特にお勧めの作品です。

2010/8再読