現代ハードSF界の第一人者である著者の、第6短編集です。最新の物理理論や宇宙論に少し手を加えた著者独特の世界をじっくり味わうには長編のほうが適していると思うのですが、短篇には強烈なインパクトを次々と味わえる楽しみがあるのです。
「七色覚」
通常の視力が認識できるのは光の3原色「赤緑青」にすぎませんが、虹を鮮明に認識できる7原色を網膜インプラントとして実装してしまったら、どのような世界が見えてくるのでしょう。最初の驚きは別にすると、意外にも普通人とあまり異ならないのかもしれません。
「不気味の谷」
長編『ゼンデギ』に登場したサイドローディング技術によって、老人の脳スキャンデータを装着されたアンドロイドの物語。法的な人格が認められない不便さは別にしても、都合の悪い記憶を意図的に除外されてしまうと困りますね。アンドロイドは老人の過去い遡って調査を開始するのですが・・。
「ビット・プレイヤー」
重力が横方向に働く異常世界に突如目覚めた女性。理論的にグダグダなのは、そこが安っぽいゲームの世界だから。そんな世界で暮らす無名の登場人物たちが、意識を持ったら何を思うのでしょう。似た設定の作品がケン・リュウ篇の『スタートボタンを押してください』にありました。そちらの世界は物理法則的には普通でしたが。
「失われた大陸」
未来世界から来た将軍や学者たちによって大混乱がひき起こされた世界からの亡命先は、未来でしかありません。しかし未来世界でも、過去からの難民を受け入れるかどうかが大きな政治問題になっていたのです。タイムトラベルなど持ち出さなくても、現実世界で起こっている物語ですね。
「鰐乗り」
「銀河系周辺地域に暮らす融合世界民を拒絶し続けてきた、銀河系中央部の孤高世界」といったら、『プランク・ダイヴ』や『白熱光』と同じ設定ですね。長い人生の最後に見出した手掛かりから、孤高世界へと向かったカップルでしたが、そこで見たものは異なっていたのです。
「孤児惑星」
「鰐乗り」のさらに先の時代でしょうか。内部に謎の熱源を持つ放浪惑星への調査隊は、意外なものを見出します。この時代においても超絶的な技術を用いていたのは、後からやってきた住民にすぎなかったのです。放浪惑星の謎は解明されないままですが、孤高世界と関係しているのかもしれませんね。
2019/8