りぼんの読書ノート

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アイガー・サンクション(トレヴェニアン)

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最近読んだバスク、真夏の死夢果つる街の印象が、本書のイメージとかなり異なっていましたので、気になって再読してみました。著者のデビュー作で、クリント・イーストウッド監督・主演で映画化されて有名になった作品です。

CIIなるアメリカの秘密機関の裏仕事を引き受けるヘムロックに、アメリカの国益に反する人物を殺害(サンクション)せよとの指令が下ります。ただし、標的については「今年の夏のアイガー北壁登攀チームに関連した誰か」としかわかりません。かくして、登山仲間に対する疑心暗鬼を抱いてメンバーに加わったヘムロックでしたが、そんな人間どうしの確執や思惑などあざ笑うかのように、アイガー北壁という魔物が、彼らの前に立ちふさがります。

本書の魅力のかなりの部分が、クライマックスのアイガー北壁への挑戦や、アリゾナでの訓練などの「本物の登山」にあることは間違いありませんが、もうひとつの魅力は、大学の芸術学部教授 兼 登山家で、美術品蒐集のために嫌々ながら殺し屋の仕事を引き受けるヘムロックの孤高のイメージにあります。映画では、イーストウッドのストイックな演技がぴったりはまりました。

この作品やシブミのイメージが後の作品と異なっているのは、作風を変えて別のペンネームで出版しようとの構想があったからのようです。ひとつのスタイルにこだわらない、多才な方だったのでしょうね。本業は大学教授だったわけですし。次は、最後まで未読だった『ルー・サンクション』を読んでみましょう。

2010/3