りぼんの読書ノート

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一の富 並木拍子郎種取帳(松井今朝子)

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安永・寛政年間に活躍した初代・並木五瓶が書いた歌舞伎狂言は、大阪時代の「時代物」が傑作と言われていますが、江戸に下ってからは「世話物」中心の作風となったそうです。理由は本人が本書の中で語っています。「江戸ではそのほうが当たるから」。^^

本書は、並木五瓶が「世話物」を書くに際して、弟子がネタを集めてきていたのではないか、との想像が膨らんだ作品なのでしょうね。主人公は、五瓶の弟子で武家の次男坊の拍子郎。彼が集めて師匠に報告に来る「町のうわさ」に事件が潜んでいるとの趣向です。

「捕物帖」というよりも、芝居町の日常生活の様子が楽しい作品ですね。全てを狂言のストーリーとして考えてしまう五瓶と、人生経験豊富な妻の小でんの含蓄に富んだ夫婦の会話や、草食系の拍子郎と、近所の料理茶屋の一人娘・おあさの恋愛部分も楽しめます。

阿吽: 狛犬の口を「メイルボックス」として不義密通を重ねる男女が起こした事件とは?

出合茶屋: 出逢茶屋に出ると噂される幽霊の正体は?

烏金: 金貸しの強欲婆が首吊りをした事件の真相は?

急用札の男: 芝居のさなかに急用札で呼び出された商人が誘拐された?

一の冨: おあさを見初めたのは豪商の一人息子。彼女にとっての「当り籤」とは誰?

「阿吽」の事件は、世話物狂言のネタとなったようですが、それ以外はどうだったのでしょう。このシリーズは『二枚目』、『三世相』と、続編が出ています。ナンバリングされたタイトルがわかりやすいですね。^^

2010/3