りぼんの読書ノート

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ハイウェイとゴミ溜め(ジュノ・ディアズ)

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ニューヨークのスラム街を、他のスラム街と隔てているものが「ハイウェイとゴミ溜め」。その先には、自分たちとは別の言葉を話す別の国からの移民たちが住む、別のスラム街があるのだそうです。いわば、それは「見えない境界線」。

本書は、少年の時にドミニカから移住してきて、ニュージャージーのドミニカ人スラムで育ちながら、大学に進学して作家となった著者の、自伝的短編集です。10章からなる作品の中で、主人公のユニオールは9歳だったりティーンエイジャーだったり、物語の舞台もドミニカの田舎町だったり、首都のサント・ドミンゴだったり、ニューヨークのスラムだったりと、順不同なのですが、どの作品からも、早熟で、粗暴で、非行に走らざるをえない少年たちの息づかいが聞こえてくるよう。

冒頭に引用されているキューバ人の詩人の言葉が印象的です。「あなたにこうして 英語で書いていること自体 本当に伝えたかったことを 既に裏切っている。わたしの伝えたかったこと それは わたしが英語の世界に属さないこと。それどころか どこにも属していないこと」

英語で書かれた本書は、スパニッシュを母語としている著者の意図から、どこまで隔たってしまったのでしょうか。それとも、大学に進学した著者が、英語の世界という「外側」に立つことによって、ドミニカ人スラムの輪郭が見えてきたということなのでしょうか。

著者が4歳の時に、家族を置いて一足先にアメリカに渡った父親が底辺の仕事につきながら浮気をして家族を忘れそうになった顛末を描いた中篇「ビジネス」と、それと対照的に、父親のことは、母親がベッドの下に残しておいた1枚の写真しか知らずにドミニカで暮らすすさんだ少年の心境を綴った「待ちくたびれて」が、特に良かったですね。

少年時代にドミニカの田舎で出会った、幼児のときに豚に顔を吸われて大怪我をした少年への粗暴な振る舞いを描いたイスラエルと、彼がアメリカで手術を受けることを望みながら健気に生きている様子を描いた「のっぺらぼう」も印象的でした。

2010/3