りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

偽りをかさねて(ジョディ・ピコー)

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わたしのなかのあなたが良かったので、著者の過去の作品も借りてきました。本書のテーマも「家庭の崩壊と再生」です。

専業主夫として愛娘を育て、漫画家としてもデビューした父親ダニエルと、大学でダンテを教える母親のローラ、そして2人に愛されて育った14歳のトリクシィ。そんな家族の幸福が、トリクシィがボーイフレンドからレイプされたことで、一夜にして崩れ去ります。

問題はそれだけではありませんでした。事件をきっかけに、ローラは教え子との不倫を告白せざるをえなくなり、ダニエルの内部では、遠い昔に葬ったはずの荒々しい人格が呼び覚まされてしまいます。そして、トリクシィに暴行を振るったジェイソンが自殺・・。

ダニエルとローラは、ダンテの『神曲』で第9層まであるとされていた地獄には、もう一段の深みがあると思うのです。それは、「自分に嘘をつく」という罪を犯した人々が行く第10層。アラスカでエスキモーの間で育ったダニエルが肝に銘じていた、言葉と願い事に関する格言と、ダンテの『神曲』の世界とが、三者三様に苦しむ家族の心の中で融合されていくのです。

漫画家のダニエルが家族の苦しみを描いたという設定の、ダークヒーローが活躍するアメコミが各章の間に挿入されています。タイトルは「The Tenth Circle(地獄の第10層)」。これがまた、いい出来栄えなんです。著者が、「本書の真髄を描いてくれた」とコミック部分の描き手に賛辞を贈っていますが、面白い試みですね。「レイプによる本人と家族の苦しみ」というテーマは決して新しいものではありませんが、エスキモーの知恵と、ダンテと、アメリカン・コミックによって、深みを増したようです。

2010/3