りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

青い野を歩く(クレア・キーガン)

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最近読んだばかりのアンジェラの灰は、戦前から戦後の時代に絶望的な貧しさの中で育ったアイルランドの少年の物語でしたが、本書は「ケルト文化」が今も息づく現代アイルランドの田舎を舞台にした8編の短編集です。著者は「ケルティック・ウーマン」のボーカル似の美女。^^

「別れの贈りもの」 家族の思い出を振り切ってアメリカへと旅立つ娘。封建的な家族に対しては、いい思い出ばかりではなかったのですが・・。アメリカへの移民は今も続いているのですね。

「青い野を歩く」 かつて愛した女性の結婚式を執り行なった神父。こぼれ落ちた真珠の首飾りが、2人の関係を象徴しているかのよう。神と対話しながら、早春の夜の野原を歩く神父の胸中は?

「長く苦しい死」 ドイツのノーベル文学賞作家ベルの家に滞在する女流作家。彼女は不愉快な訪問客をモデルにした人物に、長く苦しい死を与える小説を書こうと思い立ちます。怖い・・。

「褐色の馬」 かつて一緒に暮らしていた女を追い出してしまった男。彼は毎晩、褐色の馬と美しい女が戻ってきて彼を許してくれる夢を見るのですが、やり直すチャンスはありません。

「森番の娘」 森番の夫との結婚に失望した妻。彼女は娘の出生の秘密を公言して、夫に復讐を果たすのですが、知的障害のある息子が大事件を起こしてしまいます。犬は戻ってくるのですが・・。

「波打ち際で」 再婚した母と富豪の継父の両親に海辺のレストランで21歳の誕生日を祝って貰った若者。彼は、生涯で1時間しか海を見ることができなかった祖母の思い出に浸ります。

「降伏」 女性に結婚を迫られている、厳格で無骨な巡査部長。彼は結婚を決意するためにオレンジを食べるのです。

「クイックン・ツリーの夜」 従兄の神父との間に生まれた赤ん坊を亡くした過去を持つ娘と、嫉妬深い雌ヤギと暮らす変わり者の男。クイックン・ツリー(生命の木:別名ナナカマド)の魔法で結ばれた2人に不思議な運命が訪れます。足を洗った水は必ず外に捨てなければなりません。悪いことが家に入ってきますので・・。

封建的で甲斐性なしで泥酔する男たちと暮らす、息苦しい日常の外へ飛び出そうとする女たちの物語の舞台として、アイルランドはなんてふさわしい国なのでしょう。「ケルト神話」も物語に色を添えてくれますし・・なんてコメントは、「ケルト文化」に対する先入観が現れちゃっているでしょうか?

2010/3読了