りぼんの読書ノート

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黄金の騎士フィン・マックール(ローズマリー・サトクリフ)

イギリスのジュブナイル作家による、ケルト神話の英雄譚。主人公はかつてエリンと呼ばれていたアイルランドの上王に仕えたフィアンナ騎士団が全盛期であった頃の長、フィン・マックール。騎士団の任務はエリンの国土を侵略者から守ることに加えて、上王のもとで5つに分かれていた小王国間の調停でした。フィンの物語は「アーサー王伝説」と似ていますが、妖精や魔力との距離はより近いようです。

 

フィンはドルイド僧から未来や遠方の出来事を見通す力と、病を癒す力を奪い取っていました。妖精族の乙女であった妻サーバは、後に彼女が本来属する世界に戻っていったものの、戦士と歌人の能力を有する息子アシーンを残してくれました。後にフィンの物語を歌って後世に残したのはアシーンだったようです。

そして彼に仕えた棋士たちも多士済々だったのです。

 

かつてフィンの父クールを倒したものの、今は忠実な配下となった隻眼の勇者ゴル・マックモーナ。フィンに挑んで惜しいところまでいった大力のコナン・マックリア。知恵深いコナン・マウルとファース・フィンベル。そして勇敢な美男子のデアミッド・オダイナ。後にフィンが後妻に迎えようとした上王の娘グラーニアは、デアミッドを愛してしまい、騎士団に不和をもたらすことになります。さらにディアリン、キールタ、コイル、リガンらの勇者たち。フィンだけに仕えた2匹の犬、灰色のスコローンと、ブチのブランのことも忘れてはいけません。

 

フィンに率いられた騎士団は、ヴァイキングの一派であるロホランや、イングランドから海を渡ってくる侵略者たちからエリンを守り抜き、妖精や魔術師たちとさまざまなエピソードを残しました。しかしフィンに心からの信頼を寄せていた上王コルマクの後を継いだ息子ケアブリは、フィンを憎み、騎士団の力を恐れていたのです。ケアブリの策謀によって分裂させられた騎士団は、激しい同士討ちであった「ガウラの戦い」でともにほぼ全滅、フィンもケアブリも命を落として、偉大な時代は終わりを告げることになるのでした。ケルトの心を今に伝える、美しく面白い冒険物語です。

 

2023/9