りぼんの読書ノート

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アンジェラの祈り(フランク・マコート)

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アイルランドで極貧の少年時代をすごした著者が、19歳でアメリカへと船出するまでを描いた自伝小説の傑作アンジェラの灰の続編です。

夢の地ニューヨークに降り立ったフランクは、同郷者の斡旋でホテルの清掃係の職を得て新生活を始めるのですが、若い彼を苛んだのは、怖ろしいまでの劣等感でした。ボーイやドアマンから罵声を浴びせられ、客からは無視される最下層の仕事なんですね。より収入の高い港湾労働者へと転職したフランクは、やがて徴兵されて軍務に就きますが、いつも願っていたのは、教育を受けること。

除隊後、高校卒業資格もないまま特例で大学に入り、裕福なアメリカ人の同級生たちとのギャップに悩みながらも卒業し、ガールフレンドもでき、職業高校の教師となるのですが、「アイルランドアメリカ人」であるフランクは、どうして「○○系」という区別が必要なのか、ずっと悩み続けます。

でも、フランクもやっぱり「アイルランド系」なのです。あれほど飲んだくれの父を嫌っていたのに、自分も「ちょっと一杯」飲み始めたら最後、正体を失うまで飲んでしまうし、故郷のリムリックのことは忘れられません。

1960~70年代のアメリカは激動期です。ケネディ暗殺、公民権運動、キング暗殺、ベトナム戦争、アポロ11号、ヒッピーの登場と目まぐるしく動く時代の中で、フランクも青年期から壮年期を過ごします。郊外のエリート校教師への転職、結婚、娘の誕生、ニューヨークに呼び寄せたものの孤独を味わう母親アンジェラとの諍い、離婚・・などの末、亡くなった母の遺灰を故郷のアイルランドに撒くところで本書は終わります。『アンジェラの灰』とは、遺灰のことだったのですね・・。

「衝撃度」は前作とは比較になりませんが、静かな感動を与えてくれる作品です。悩みながらも真摯に生きた者の人生が、読者の心を打つのです。もちろん、明るい語り口は健在ですよ。

2010/3