りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010/2 カデナ(池澤夏樹)

今月は、日本人小説家による新作が上位を独占するランキングになりました。たまにはこういうのも、いいでしょう。ただ「最高におもしろい!」という作品が揃ったわけではなく、「水準」が揃ったにすぎない感じですので、どれも「★」かなぁ。

むしろ、かなり以前の作品なので「次点」とした、海外SFの名作・大作のほうを選ぶべきだったのかもしれません。再読した大江健三郎さんの『洪水はわが魂に及び』は、もちろん別格です。
1.カデナ(池澤夏樹)
1968年夏。まだアメリカ軍の施政権下にあって、ベトナム空爆の拠点となっていたカデナ基地を擁する沖縄に、「小さな素人スパイ組織」がありました・・。「独立した個人として連帯する」スパイたちですが、人それぞれに、動機と複雑さを抱え持っているんですね。「あたまでっかち」になりがちな主題を「おもしろい小説」に仕上げさせたのは、10年に渡る著者の沖縄生活だったように思います。

2.鉄の骨(池井戸潤)
著者が、自動車会社のコンプライアンス違反問題の次に選んだテーマは「「ゼネコン談合」。日本の全就業人口の10%近くを占める建設・土木業界の雇用問題は、政治問題であり、談合をいちがいに「悪」と切り捨てていいものかどうか・・。本書はあえてその難しい部分に入り込み、若手社員の眼を通して談合の意味を考えさせ、新しい仕組みを模索した小説となっています。

3.銀のみち一条(玉岡かおる)
播磨の奥で明治日本の近代産業を支えた生野銀山を舞台に、一介の杭夫でありながら鉱山の近代化に奔走する青年を巡る、ハイカラ女学生と、美貌の芸妓と、純真な女中。そこに絡むのは、地元の実力者や、文学青年や、エリート鉱山技師など・・。いかにもドロドロになりそうな関係ですけど、本書を貫いているのは「鉱山の近代化」が決して男だけのものではなかったという、著者の視点です。




2010/2/28記