りぼんの読書ノート

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まぼろしの王都(エミーリ・ロサーレス)

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主人公は、著者の分身と思えるエミーリ・ロセルという画廊の持ち主。彼は、幼い頃から探検して遊んだ廃墟群を「見えないまち」と呼んでいたのですが、その正体は誰も知らないタブーとされていました。そのことはずっと忘れていたのですが、学生時代の友人や恋人との久々の邂逅の後、何者かによって彼の元に送られてきた18世紀の建築家の手記を読み、その地に王都建設計画があったことを知り、調査に乗り出します。

18世紀の啓蒙君主として知られるカルロス三世がイタリアから招聘した建築家サバティーニと、若い弟子のアンドレア・ロセッリ。この2人が、国王が青年時代を過ごしたナポリや、ロシアの女皇エカテリーナが建設したばかりのサンクト・ペテルグルグに匹敵する都市の建設を依頼されたというのです。

師の妻チェチーリアとの間の許されない恋や、やはりスペインに招聘されていた晩年のティエポロとの交流などが、18世紀の物語を彩りますが、肝心の王都建設はどうなってしまったのか。そもそも、「手記」は誰が何の目的で送ってきたのか。

著者は、風の影の編集者だそうです。歴史にかかわる過去の物語が現代の主人公の人生と交差する展開は、似ていますね。ロセルとロセッリ、名前も似ていますが、もちろんそれにも理由があります。でも『風の影』ほどにはドラマティックにならないところが惜しい!

物語が展開されるのは、カタルーニャのサンカルラス・ダ・ラ・ラピタという、バルセロナバレンシアのほぼ中間、エブロ川の河口に開けた町だそうです。ティエポロ晩年の傑作とやらも見たいものですが、それは架空のものですよね。

2009/11