りぼんの読書ノート

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大聖堂 上(ケン・フォレット)

著者は新聞記者時代に取材した大聖堂に興味を抱き、その建築過程を扱った小説を構想したそうです。しかしその試みはうまくいかず、スパイ小説作家として文壇にデビュー。それでも初志は捨てきれず、中世史や建築学を学び続け、ついに20年後に本書を書き上げました。中世は人命が軽い残忍粗暴な時代であった反面で、科学の進歩と技術革新の時代でもあったという著者の思いが、本書の中で見事に結実しています。

 

物語の舞台は12世紀の南西イングランドノルマン朝のヘンリー1世亡き後に、甥のスティーブン王と娘の女帝モードが王位を巡って長い抗争を続けた時代。『修道士カドフェル』の読者ならお馴染みの時代ですね。物語の主人公は、いつかこの手で大聖堂を立てたいとの夢を抱く建築職人のトムと、義理の息子のジャック。そこに施主側のキングスブリッジ修道院長フィリップの物語や、近郊のシャーリング伯爵位をめぐる物語が複雑に絡みあっていきます。

 

職を失い家族を抱えて放浪中のトムは出産で妻を失ってしまいます。彼を救ったのは訳あって森で暮らしているエレンとジャックの母子でした。一行はキングズブリッジ修道院で飢えをしのぎますが、折しもそこでは亡くなった修道院長の後継を決める選挙が行われようとしていました。敬虔で合理的な考えを持つフィリップが選ばれますが、老朽化していた聖堂が火事で焼け落ちてしまいます。後片付けや応急処置でフィリップの信頼を得たトムは、大聖堂の建設を進言。しかし火事はなぜ起こったのでしょう。

 

一方で近隣のシャーリング伯は、女帝モードについてスティーブン王への反乱を企てた罪で処刑されてしまいます。後を継いだのは悪辣な豪族であったハムレイ家でした。シャーリング伯の遺児である娘アリエナは、ハムレイ家の息子ウィリアムに凌辱され、弟リチャードとともに家の再興を誓いますが、具体的な手立てなどありません。このウィリアムと司教ウォールランが、本書を通じての悪役ですね。波乱万丈で壮大な物語が幕を開けました。

 

2022/9