りぼんの読書ノート

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ハイペリオン(ダン・シモンズ)

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長い長い「ハイペリオン4部作」に、ついに手を出してしまいました。

後のイリアムオリュンポスの2部作が、シェークスピアをモチーフにした世界を描いていたのに対し、このシリーズは19世紀イギリスの詩人ジョン・キーツの未完の詩篇に着想を得ています。

本書のテーマは、宇宙に進出した人類が進むべき道標を示すことにあるのでしょうか。オールドアースと呼ばれる地球はすでに過去の星になっていますが、旧来の宗教観に基づいて成り立っている「連邦政府」と、アウトローとして連邦政府の外に飛び出し独自の進化の道を歩み始めた「アウスター」と、人類の手を離れ事実上「連邦政府」を支配している「人工知能AI」の三つ巴の争いが物語の骨格をなしています。

物語は、辺境の惑星ハイペリオンにある「時間の墓標」に向けて、連邦政府の指示で7人の巡礼が旅立つところから始まります。それは、人類の理解を超えたものとして信仰対象ともなっている場所なのですが、近年、活動が活発化しているというのです。時を同じくして「宇宙の蛮族」である「アウスター」がハイペリオン侵攻をもくろんでいるようで、彼らに先んじて「時間の墓標」の謎を解明するのが巡礼たちの任務。

ところが、この7人の巡礼にはそれぞれハイペリオンと深い因縁があり、旅の途中で順番にそれぞれの物語を語るという、まるで『デカメロン』や『カンタベリー物語』のような構造なのですが、その中でおぼろげに「時間の墓標」や、そこに出没している「時間と空間を越えて千の刃を持つ」怪物「シュライク」の正体が見えてくるのです。

でも本書では、その後の展開の予想はおろか、謎の解明も見えてこない中途半端な地点で読者は放り出されてしまいます。7人のうち途中で行方不明となった1人を除いた6人の物語が紹介されただけで、彼らが「時間の墓標」に向かって谷を降りていくところで突然終わってしまうんです。続編を読まないわけにはいきません。まだ先は長い!

長くなりますが、6人の物語の骨子をメモしておきましょう。

1.ルナール・ホイト神父の物語
追放された先達がハイペリオンでシュライクを崇める「聖十字架団」への入信を強制され、胸に埋め込まれた「生きた十字架」によって逃れられなくなった物語。彼の捜索に加わり、遺体を発見したホイト神父の胸にも十字架が・・。

2.カッサード大佐の物語
新武士道を信念とする旧パレスチナ出身の軍人がバーチャル戦場で出会った運命の女性は、シュライクの仮の姿? 未来から時間を逆行してきたシュライクの望みは星間大戦なのか?

3.詩人のサイリーナスの物語
延命治療を繰り返して400年も生きているオールド・アース生まれの詩人は、かつてハイペリオンに住んでいた時に得た自分の詩想がシュライクを生み出したと信じています。彼は、失われた詩想と決着をつけるためにハイペリオンへと向かうのですが・・

4.幼児を抱いた学者ソル・ワイントラウブの物語
新鋭の考古学者としてハイペリオンを探索したソルの娘レイチェルは、そこで「時潮」に呑まれるというトラブルに遭遇して以来、時間を逆行して若返り始め、ついに幼児にまで戻ってしまう。ソルはレイチェルを救う最後の望みを抱いてハイペリオンに向かうのです。

5.女探偵ブローン・レイミアの物語
キーツを再現したサイブリッドのジョニイからの依頼とは、彼を殺して記憶を失わせた犯人を見つけ出すこと。AI連合体「コア」に命がけで潜入した彼女は、ジョニイが人間になろうとして他のAIから殺害されたこと、「時間の墓標」とはAI急進派が人類を滅亡させるために1万年後の未来から送り込んだものであることを知るのです。

6.元ハイペリオン領事の物語
独立をもくろむ植民惑星の娘と、連合政府の宇宙船航海士との悲恋が語られますが、2人は領事の祖父母でした。連合政府とアウスターの双方から家族を殺害された領事は、自分が二重スパイであり、「時間の墓標」を開いた犯人であることを打ち明けます。

7.「聖樹の真の声」ヘット・マスティー
連邦政府内で中心的な宗教である「聖樹会教会」の代表者のひとりである彼は、途中で行方不明に・・。

2009/10