りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

似せ者(松井今朝子)

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松竹で歌舞伎の企画・製作に携わり、後に歌舞伎の脚本家となった松井さんが著した、江戸期の芝居に関わる人たちの生き模様を切り取った中篇4作が収められています。

「似せ者(にせもん)」
名優・坂田藤十郎の死後、人気の低迷する歌舞伎界を盛りたてるために、藤十郎の「そっくりさん」に名跡を継がせたまでは良かったのですが、やがて「そっくりさん」が自分の意思を持ち始め・・。

狛犬
いつも狛犬のように2人並んで連れ立っていた助五郎と広治。冴えない広治をひきたててやっていたつもりの助五郎でしたが、やがて広治が相撲の芝居をきっかけに売れっ子になり、さらには2人の幼馴染である踊子・お菊の気持ちもからんで、複雑な気持ちになるのです。

「鶴亀」
名優・鶴助の元弟子で今は仕打(興行主)の亀八は、天保磊落な鶴助に振り回されてばかり。「一世一代(引退興行)」をしたいという鶴助の、最後のわがままをきいてやるのですが・・。

「心残して」
幕末あどれさんと同じ時代、同じテーマの物語。趣味が高じて浄瑠璃囃子方になった旗本の男が、武士の意地を貫いて上野の戦に出て行く顛末を、三味線弾きの巳三次が語ります。

どの作品をとっても、芝居に対する作者の深い造詣や愛情が感じられるのですが、それだけでなく、芝居の奥深さや芝居に憑かれた者たちの異常さがチラッと姿を見せてくれるあたりは、作者の力量なのでしょう。

2009/10