りぼんの読書ノート

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発火点 (C・J・ボックス)

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ワイオミングの猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とするシリーズも、もう第12作になりました。

第1作『沈黙の森』では幼い少女であった長女シェリダンも大学生になっています。前作『鷹の王』はジョーの友人である鷹匠ネイトの過去と彼に迫る危機を中心に据えた物語であり、その後の展開も気になるのですが、本書はジョーの物語に戻りました。

 

事件の発端は、ジョーの知人で小さな工務店を経営しているブッチが失踪し、彼の所有地から2人の男の射殺体が発見されたことでした。殺害されたのは連邦政府環境保護局の特別捜査官であり、環境保護局の地区本部長が自ら捜査の指揮に乗り込んでくるのですが、ジョーは不自然さを感じます。ブッチがあまりにも不可解で不当なペナルティを環境保護局から課せられていたのは、なぜなのでしょう。そして地区本部長は何をもくろんでいるのでしょう。捜査の手助けを命じられたジョーは、狩の名人で山を知り尽くしているブッチを追ってビッグホーン山脈へと分け入っていきます。

 

ジョーが家庭や仕事や自然に見せる誠実さは疑いようもありませんが、本書からは地方における連邦政府への不信が匂ってきます。地方事情をろくに知らずに権力を振りかざす者や、安寧な暮らしを望んで上司の指示に従うだけの者が多くいるというのも事実なのでしょう。捜査が開始される直前に、ジョーは新しい上司から現場を離れて州都シャイアンでの執務を条件に昇進を打診されるのですが、新局長もまた現場を軽視するタイプの人物のよう。近年のアメリカで目に付く分断や分裂が、小説にも入り込んできたわけです。

 

広大な大自然で行われる追跡劇や、ある出来事によって発生する大火災からの脱出劇は、政治的な思惑など吹き飛ばしてしまうほどスリリングなのですが、事件の収束に際してジョーは重大な決断をするに至ります。ラスト近くで登場したネイトとの関連はまだ未知数ですが、次巻からは新たな展開が期待できるのかもしれません。

 

2020/12