りぼんの読書ノート

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冷酷な丘(C・J・ボックス)

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ワイオミングの猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第10作です。このシリーズが開始された2001年以降のワイオミングでは、押し寄せるシェールガス開発から自然を守ることが大きな課題でしたが、本書が出版された2011年の時点では一段落状態。代わって風力発電事業に関わる政治問題が取り扱われています。長く書き継がれているシリーズには、時代の変化が反映されるのです。

冒頭で何者かに殺害されたのは、ジョーと折り合いの悪い義母ミッシーの再々々々婚相手の大富豪、オールデン。伯爵と呼ばれるほど広大な所有地で風力発電事業に乗り出した途端に射殺されて、見せしめのようにタービンブレードに吊るされていたのです。密告によって保安官に逮捕されたのは、なんとミッシーでした。

60歳を過ぎてなお美しく権力志向が強いミッシーは、次々と離婚を繰り返してセレブへの階段を上り詰めたところであり、全てを台無しにする夫殺しをするとは考えにくく、体力的にも不可能に思えます。しかも密告者はミッシーとの離婚で財産を失った前夫バドであり、個人的な恨みもあるようです。事件の調査に乗り出したジョーは、巨額の補助金が絡む風力発電事業に関する政治的な陰謀にたどりつくのですが・・。

このシリーズの魅力はミステリ性とは異なるところにあるのですが、本書で明かされた真相は、まるで推定無罪のようでした。珍しくジョーの調査が空回りしたことも含めて、シリーズの中でも異色の作品です。

本書では、前作狼の領域で正義に関する見解の相違からジョーと仲違いしていたネイト・ロマノフスキの過去が、一部明らかにされています。陸軍で秘密作戦に従事していたネイトは、なぜ特殊部隊からドロップアウトし、誰に狙われているのか。次作ではネイトを主役とする物語が展開されることになりそうです。

2018/6