井戸掘りの話からはじまって、11月の雨の匂いで終わるデビュー第2作は、一気にシュールさを増して難解になります。以前この小説を読んだときには大江健三郎の『万延元年のフットボール』のパロディかと思ったものですが、両者の共通点はごくわずかですね。むしろタイトルが似ている分、相違点が際立ちます。
「僕の物語」と「鼠の物語」が交互に進行します。大学を卒業して翻訳で生計を立てていた「僕」は、双子の女の子と暮らし始め、1970年のジェイズ・バーで「鼠」が好んでいたピンボール台を探そうとする。一方の「鼠」は1970年に大学を辞めて以来、現実感を喪失しジェイズ・バーに入り浸っていたのですが、知り合った女性とも別れて街を出て行く。
「僕」は「大団円はずっと先のこと」と語っていますが、「僕と鼠の物語」の結末は、『羊をめぐる冒険』の1979年を待たなくてはなりません。それとも、「僕」の物語が完結する『ダンス・ダンス・ダンス』の1983年のことを指して言っているのでしょうか。
双子の女の子も謎ですし、配電盤の葬儀となると、もっとわからない。もと養鶏所の倉庫に並んでいる78台のピンボール・マシンとなると、読者の理解を拒んでいるかのよう。やはり「説明されても理解できない」世界?
唯一、両者をリアルな世界に繋ぎとめている存在がジェイなのですが、「僕」も「鼠」も、ジェイを故郷の町に残して飛び出していくのです。2人がたどり着く先は「いるかホテル」経由で「羊農場」なのですが・・。
2009/9再読