りぼんの読書ノート

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シェイクスピア・シークレット(ジェニファー・リー・キャレル)

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いわゆる「シェイクスピア学」には「オカルト・シェイクスピア」と呼ばれる学問領域があるそうです。別に心霊的なものではなく、とかく謎の多いシェイクスピアという人物や著作について解明していく学問ですので、もともとミステリ向きのテーマですね。

本書は、ハーヴァードの「シェイクスピア学教授」である著者が著した歴史ミステリです。シェイクスピアは実在したのか。シェイクスピアとは、歴史上著名な別人のペンネームにすぎないのか。著者は、シェイクスピアという「執筆者」を核としながら、他に4名の「原案者」を含む知的サークルの共同作業ではないかと推論しているようですが・・。

本書では、シェイクスピアの人物同定のみならず、「カーディニオー」という失われた戯曲の探索も大きなテーマです。ただそこに、1623年にグローブ座が焼け落ちた背景とか、ハワード家の陰謀とか、スペインのイエズス会との関係とか、シェイクスピアの男色とか、いろんなものを織り込みすぎて、わかりにくくなってしまったのは残念でした。

ストーリーは『ダ・ヴィンチ・コード』の二番煎じなんです。謎を解明する手がかりをつかんだ学者が殺され、後を継いで探索に乗り出した主人公が、誰が敵で誰が味方かわからない状況の中で命を脅かされながらも真相に迫るという物語。

被害者たちがシェイクスピア劇の登場人物にちなんだ殺され方をしているというあたりは、『天使と悪魔』に似ていますね。ハムレットの父親のように耳から毒を注ぎ込まれた恩師や、オフェーリアのように川で溺れさせられた先輩や、ガートルードのように毒を飲まされた大富豪の収集家や、シーザーのように短剣を突きたてられた図書館長など・・。

主人公のケイトに向けられた、「お前をラヴィニアにしてやる」との恐喝も怖かったな。(ラヴィニアとは、全作品中で最も残虐と言われる『タイタス・アンドロニカス』で、舌と両腕を切られて陵辱された娘のことです。)

海を渡ったピューリタンによってシェイクスピアアメリカに持ち込まれたことや、西部開拓時代にシェイクスピアが好まれ、彼にちなんだ名前をもつ鉱山や町が西部に多く残っていることなどは興味深かったのですが、小説としては成功していません。

2009/8読了

【P.S.】
著者が「共作者」として名前をあげたのは、次の4人です。
ダービー伯
・オクスフォード伯
フランシス・ベーコン
ペンブルック伯夫人