誰もが知っている名作ですが、今まできちんと読んだことがありませんでした。
アラスカでゴールドラッシュが起こった19世紀末に、一攫千金を夢見てアラスカとカナダで探鉱者としての生活をおくった経験が、著者にこの本を書かせました。当時はまだ、犬ぞりが唯一の輸送手段だった頃のこと。さぞ、そり犬たちにもお世話になったのでしょうね。
カリフォルニアの広大な屋敷で何不自由なく育てられた、セントバーナードとシェパードの混血犬バックは、突然犬泥棒に捉えられ、そり犬としてアラスカに売り払われてしまいます。鞭と棍棒に追われ、アラスカの氷原で屈辱的で労働を強いられるようになったバックですが、やがて頭角を現し、ボス犬との戦いにも勝って群れのリーダーとして君臨。持ち主や任務が変わっていく中で、ついに信頼できる主人ジョン・ソーントンとめぐり合い、主従は固い信頼と愛情に結ばれるのですが、厳しい自然の中で、バックはずっと何かが自分を呼んでいるような気がしていました。ジョンが悲劇に見舞われた時に、バックの中の野性がついに目覚めるのでした・・。
貧困の中で育ち、小学校卒業後すぐに缶詰工場で働き始め、鉄道無賃乗車をする流れ者となったり、牡蠣泥棒をしたりして、波乱万丈の生活をおくった著者の作品には、時として強さに対する崇拝や、禁欲的な暴力性などが仄見えることがあるのですが、本書の場合には、厳しい自然という背景が、時として欠点となりえるそういった特性を無理なく吸収しているように思えます。もちろん、完成度も高い小説です。
2009/6