りぼんの読書ノート

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アーサー王ここに眠る(フィリップ・リーヴ)

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アーサー王に関する小説はたくさん出ていますが、「アーサー王伝説」を再編するものと、「歴史上の人物としてのアーサー王」の真実の姿を探ろうとするものとに大別されます。

本書は児童書として書かれたものですが、その両者を融合させた「アーサー王物語」です。作者の想像する「実在のアーサー」は、ローマ軍の撤退後サクソン人が侵入し、群雄割拠状態になったイングランドに現れた野心的な英雄のひとりにすぎません。

結果として、この時期にイングランドを統一した英雄など登場しなかったのですが、アーサーの軍師的役割を果たした吟遊詩人のミルディンが、「物語の力」を利用して、戦乱の世で平和を希求していた多くの者たちが抱いていたであろう、英雄待望の機運に乗せようとしていた・・というのが本書のスタンス。

みなしごの少女グウィナはミルディンに拾われて、泳ぎの得意なことを生かして、滝つぼからアーサーに剣を授ける役割を果たします。もちろんこれは、名剣カリバーン(エクスカリバー)を、水の妖精から授けられたという物語となるわけです。ミルディンは、少年に変装させたグウィナとともに、ちょっとした勝利を伝説的に語り、妻の浮気などの都合の悪いことは、それを繕うために不思議な出来事に変えてしまい、アーサーが「約束された英雄」であると人々に信じさせていくのですが、彼の試みは成功したのでしょうか。

『事実』は新発見や新解釈によって変わりえるが、『フィクション』は不滅であるとの意味では、ミルディンの試みは大成功を収めたことになるのですが・・。後の物語では、ミルディンは「アーサーを助けた魔法使いマーリーン」として記憶されることになりますが、それは生き残ったグウィナが広めた物語だったのかもしれません。虚実の狭間に身を置きながらも愛を求める少女グウィナが生き生きと描かれていますので、ジュブナイルとしても優れた作品だと思います。カーネギー賞受賞作。

2009/6