りぼんの読書ノート

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幻の特装本(ジョン・ダニング)

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前作『死の蔵書』で警察を辞めて古書店主となったクリフが遭遇した新たな事件。存在するはずのない、エドガー・アラン・ポー作「大鴉(RAVEN)」の1969年限定版を盗んで逃亡中という女性を連れ戻して欲しいというのです。

その女性エリノア・リグビーは、天才的な特装本出版者であったグレイスン兄弟の弟子の娘であり、さらには出生の秘密もありそうなのですが、何らかの鍵を握っていることは間違いなさそう。莫大な価値があるという古書について調べ始めたクリフの前に、過去の連続殺人事件の影まで差してくるのですが・・。その本は果たして本当に実在するのか? そして何故、殺人が繰り返されるのか? 

本書では、稀覯本がコレクターと流通業者との間で価値を上げていくメカニズムだけでなく、その前の特装本の製造過程にスポットライトが当てられます。挿絵画家の選択からはじまり、活字書体やバランス、紙やインクの質、印刷状態や装丁に至るまで完全な特装本を製作する出版者の執念は、江戸時代の浮世絵を作り上げる工程を思い起こさせます。印刷物でありながら、それ自体が美術品。一般的な古書という概念を超えた世界ですね。

このシリーズ、「古書の探索」という似たようなテーマの繰り返しになるのを避けるため、多くは書かれていないとのことですが、あと2冊『失われし書庫』と『災いの古書』という本が出ているようです。どのような、古書に関わる物語を用意したのか、気になります。前作では少々匂った、主人公の「ハードボイルド臭さ」はかなり抜けたようです。これは訳文のせい?

2009/6