りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009/5 アメリカン・ゴッズ(ニール・ゲイマン)

現代の神話ともいうべき奇想天外な物語を次々と生み出すニール・ゲイマンさんは、好き嫌いが分かれる作家ではないかと思います。『アメリカン・ゴッズ』は、なぜ、ヨーロッパなど旧世界に数多くいる神々や妖精はアメリカにいないのか、アメリカは「神なき地」なのかというテーマに取り組んだ、これまでの作品の集大成ともいえるスケールの大きな作品です。

2位にあげた藤沢周平さんの『蝉しぐれ』では、主人公の禁欲的な精神と、抑制した物語の展開と、シンプルな文体とが美しいシンメトリーを構成しているようです。完成度の高い作品です、
1.アメリカン・ゴッズ(ニール・ゲイマン)
「神なき地」アメリカにも旧世界の神々は移民たちとともに渡ってきていたのに、自動車の神、クレジットカードの神、インターネットの神、メディアの神などの「アメリカ生まれの新しい神々」によって片隅に追いやられているというのです。「古い神々」が「新しい神々」に対して最後の決戦を挑むのですが、真の問題は、新しい神々ですら次々と使い捨てにされる、現代アメリカの精神的風土でした・・。

2.蝉しぐれ(藤沢周平)
少年の淡い恋、親友との交友、派閥争いに巻き込まれて刑死した父への尊敬の念と、苦しい生活の中で息子に愛情を注ぐ母への感謝の念、剣の修行で鬱屈した気持ちを昇華させ、自らを律しながら剣士として成長する日々、醜い陰謀に対する怒り、手に汗握る大剣戟・・と、藤沢時代小説を貫くエッセンスが全て含まれる傑作です。禁欲的な主人公の精神は、物語の展開とも文体ともぴったり。

3.直筆商の哀しみ(ゼイディ・スミス)
ロンドン郊外でひっそりと「直筆商」を営んでいる主人公のもとに、少年時代から憧れていた往年のハリウッド女優から招待状が届きます。中国系の父とユダヤ人の母を持ち、人種的な矛盾を一身に背負い込んでいるような主人公の、「それなりの」大冒険は、小説家や宗教家などの「虚業」の全てを笑い飛ばしてしまうのです。前作『ホワイト・テーズ』のカオス的な面白さには及ばないのですが・・。

4.女三人のシベリア鉄道(森まゆみ)
明治の末から昭和のはじめにかけての時期に、シベリア鉄道に乗ってパリに向かった与謝野晶子と、中条百合子と、林芙美子。しかも、晶子と芙美子は女一人の単独行。著者は、実際にシベリア鉄道に乗車して3人の旅を追体験しながら、彼女らの人生の旅にも踏み込んでいきます。著者を含めて女4人が見たロシアの光景や人々の様子も興味深い、優れた作品に仕上がりました。



2009/5/31