りぼんの読書ノート

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修道士カドフェル4 聖ペテロ祭殺人事件(エリス・ピーターズ)

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このシリーズの舞台は、12世紀中ごろのイングランドですので、黒のトイフェルよりは100年ほど前の時代になります。ウェールズとの国境に位置するシュールズベリの修道院ケルン大聖堂とは比べ物にはなりませんが、この巻では、街の商人たちと修道院との微妙な関係も扱われているので、共通するものがありますね。

毎年8月に行なわれる聖ペテロ祭には、各地から商人が集まって盛大な市が立つのですが、そこから得られる収益は修道院のものという契約が存在していて、町には利益は落ちません。モード女帝とスティーブン王との間の争いで被害を蒙った町は、修道院に対して利益の一部を寄付してくれるように依頼するのですが、契約に厳格な新修道院長から拒絶されてしまいます。

そんな中で、ブリストルから来たワイン商人のトマスが(フランスワインはブリストル経由でイギリス中部以北の地域に持ち込まれたんですね)、町の若者たちと諍いを起こした晩に殺害されてしまいます。修道院に対して強硬派であった、町長の息子フィリップに容疑がかかりますが、翌日、第2の殺人が・・。果たして事件の真相は?

修道院と町との諍いは、より大きな陰謀の隠れ蓑として利用されてしまったようです。事件の背景には、まだ決着がついていなかったイングランド国王の座を巡る争いがありました。国内を自由に移動できる商人たちは、領主の密命を受けて、訪問先の情勢を視察したり、互いに情報を交換し合ったりと、スパイもどきの活動をおこなっていたんですね。よく時代考証がなされた小説からは、教科書の教えてくれない背景を学ぶことができます。^^

2009/5