『アナンシの血脈』や『アメリカン・ゴッズ』などの、混沌とした古代神話的な世界を題材にした小説と得意とする著者は、「サンドマン」というアメリカンコミックの原作も手がけているとのこと。「サンドマン」とは夢を司る不思議な存在であり、まぶたに砂をかけることで人を眠りに誘うことから、その名前がついています。
人里離れた寺で自給自足のつましいながら満ち足りた生活をおくっている若い僧と、彼に恋した雌狐の、叶わぬ恋の物語。自らの言い知れない不安を鎮めるために、夢の力を借りて若い僧の心の平安を我が物にしようとする都の陰陽師の企てを知った雌狐は、夢を食べるという獏になりすまして僧を助けるのですが、それは彼女の命を捧げることにほかなりませんでした。それを知った僧は・・。
陰陽師が悪役となっているのを、夢枕さんは、どう思いながら訳したのでしょう。もちろんこの悪役陰陽師は安部清明ではありませんし、清明の母親はキツネだったとの伝説もあるくらいですから、むしろ深いところで『陰陽師シリーズ』と繋がるものがあるのかもしれません。
「物語」には関わることなく、ただ見守るだけの「サンドマン」には物足りなさを感じますが、オリジナルを知っていると、より深く理解できるのかもしれませんね。でも、ニール・ゲイマンさんが日本的な不思議世界を正しく理解してくれたことで「良し」としましょう。『アメリカン・ゴッズ』にチラッと登場する日本の神はキモノを着た女性の姿をとっていましたが、まさかキツネじゃありませんよね。^^
2009/6