りぼんの読書ノート

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山田風太郎明治小説全集 7.明治断頭台

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山田さんの「明治もの」は年代順に収録されているのですが、本書は「番外」のような位置づけで、時代的には『警視庁草紙』より前の明治2~4年を舞台とする物語。

太政官弾正台(役人の汚職を調べ糾弾する役所)の大巡察、香月経四郎と川路利良が維新直後の「奇妙な空白期間」に起きた不思議な事件を次々と解決する探偵小説。川路は後に「警視庁大警視」となる実在の人物ですが、平安貴族のような水干姿で登場する香月は作者の創造上の人物のようです。(表紙の絵を参照してください)

この香月。パリ留学帰りなのですが、日本にギロチンを持ち込んだのみならず、パリの死刑執行人の家柄であるサンソン家の9代めに当たる娘のエスメラルダまで連れ帰ってしまいました。もっとも娘のほうが彼を追って勝手に来日したのですが。

彼らが捜索にあたった事件はどれも、「機械を用いた不可能犯罪」です。
「怪談築地ホテル館」 下手人がいないのに切断された死体の謎
アメリカより愛をこめて」 アメリカに亡命した人間が妾を孕ませた謎
永代橋の首吊り人」 手を使えない人間によって首吊り死体が現出させられた謎
「遠眼鏡足切絵図」 望遠鏡で目撃された殺人事件の、死体消失の謎
「おのれの首を抱く屍体」 顔のない死体の謎(山城屋疑獄事件)

三雲岳斗さんの、ダ・ヴィンチを探偵役として起用した「ルネサンス・ミステリ」と同じテイストですね。巫女に扮したエスメラルダに「口寄せ」で事件の真相を語らせるというあたりはケレン味たっぷりなのですが、最終章「正義の政府はあり得るか」で全てが覆る。

陸軍大輔・山縣有朋に嫌疑がかかった山城屋疑獄事件をもみ消すよう、神とも仰ぐ西郷隆盛から直々に依頼された川路利良が、志を翻してしまったのは当然として、問題は香月。彼を脅迫するために、エスメラルダに大禁書「資本論」を翻訳させて逮捕するとの陰謀に対して、香月が明かしたのは、全ての事件の裏に潜んでいた驚愕の真実だったのです・・。

役人の不正を暴く弾正台は明治4年に廃止され、川路は新設された警視庁を率いる大警視として明治警察の礎を築いていくことになります。「正義の政府はあり得るか」・・シリーズ全てを貫いている重いテーマです。

2009/6