りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

蜂の巣にキス(ジョナサン・キャロル)

イメージ 1

先に薪の結婚を読んでしまっていたことは、本書に関してはマイナスではなかったようです。解説で豊崎由美さんが「これって普通のミステリーじゃん」と書いていましたが、決してそうではないことは前もってわかっていたのですから。この本はクレインズ・ビュー三部作」と言われるようになるシリーズの1作めなんですね。

とはいえ本書に関しては、一見いつもの「ダーク・ファンタジー」っぽさは影を潜めているかのようです。スランプに陥った作家のサミュエルが、自分がハイスクールの学生だった30年前に死体の発見者となった事件の真相をテーマにして小説を書こうと思いつきます。被害者のポーリンは当時19歳。難関大学に進学した才媛で、かつ美少女。好奇心旺盛で何にでも頭を突っ込み、しかも「誰とでも寝る」という矛盾した存在で、当然、町の超有名人。

「入り組んでいてせわしない。いつも飛び回っていて、その気になれば刺せる」ことから「蜂の巣」と呼ばれていた彼女を殺害したとされる大学生は、逮捕されて刑務所内で亡くなっていたけれど、サミュエルには彼が真犯人だったとは思えない。しかし、調査を開始したサミュエルに、謎の影が迫ってきます・・。

一方で、離婚したばかりのサミュエルに近づいてきたヴェロニカという女性が登場します。一旦は彼女を愛するようになったサミュエルですが、やがて、謎めいた過去と交友関係と能力を生かして「愛のために」調査を進めるヴェロニカを、うとましく思いはじめます。ヴェロニカの物語は当時の事件とは直接交錯してはいないのですが、彼女が壊れていく様子は男性にとっては恐怖でしょう。「ひとつの人生では満足できず、いくつもの人生を生きたい」というヴェロニカの造形が、次の作品の主役であるミランダに結実していったように思えます。

2009/6